多焦点眼内レンズ~遠近両用眼内レンズ~

1.単焦点レンズと多焦点眼内レンズ

白内障手術では、濁った水晶体を摘出し、その代りに眼の中にレンズを移植します。これを眼内レンズといいます。従来の白内障手術では単焦点眼内レンズといって、ある1点にピントの合うレンズを挿入しています。手術前に眼の大きさ(眼軸)や角膜の屈折度数を計算し、遠視や近視のない状態、もしくは若干近視の状態にあわせて度数を計算しレンズを入れるのです。
具体的に手術後は、下図のように遠方、近方のどちらかがはっきりしているように見えます。

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遠方に合わせた状態であれば近見時に、近方に合わせた状態であれば遠見時に眼鏡装用が必要になります。例えば、運転や買い物で遠くは見えるのに、メーターや値札がはっきり見えないといった感じです。いちいち眼鏡を取り出して掛けるのは煩わしいと思います。
そこで多焦点眼内レンズです。
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写真のように眼内レンズに同心円状にプリズムレンズが並んでいます。原理は難しいのですが、目に入ってくる光を回折現象により遠用と近用に配分するのです。これによって遠くと近く(手前約30cm)が見えるのです。

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また、他にも屈折型という遠方と中間距離(約1mほど)がみやすいレンズもあります。患者さんのライフスタイルに合わせてレンズを選択しますが、屈折型は瞳孔の大きさに影響を受けやすいという欠点もあります。
しかし、どちらにしても単焦点レンズと比較し遠くも近くも見えるので、日常生活において眼鏡を必要とする機会はかなり減るようです。ゴルフなどのスポーツやお買いもの、女性のお化粧など今まで老眼で困っていた方にお勧めです。現在、近見距離は30cm、40cm、50cmから選択が可能です。術前にしっかり相談して決めます。

2.多焦点眼内レンズの手術適応

多焦点眼内レンズはどなたにでも入れられるものではありません。例えば緑内障や眼底の疾患(黄斑変性症や糖尿病網膜症など)があり、白内障以外で視力低下が疑われる場合は、入れてもあまり効果がありません。また、角膜に強い乱視や不整な乱視、混濁などがあってもあまりお勧めはできません。興味のある方はまず医師に相談し、適応があるのか検査を受けてください。角膜乱視などは乱視矯正用の多焦点レンズを挿入することで改善できます。あまり強い乱視では術後にLASIK手術で乱視を矯正することも可能ですが、費用は別途必要です。

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3.多焦点眼内レンズの手術費用

多焦点眼内レンズの手術は通常の白内障手術と同じで、超音波にて白内障を破砕し取り除いた後に眼内レンズを挿入します。その際入れるレンズの種類が違うだけです。しかしながら、多焦点眼内レンズは大変高価であり、現在通常の健康保険では認められておりません。保険適応外のため手術は自由診療となりますが、令和2年4月より選定療養の対象となりました。選定療養とは患者さんご自身が選択して受ける追加的な医療サービスで、その分の費用は全額自己負担となります。(例:入院中の個室など差額ベッド)
 具体的には下記の図に示すように通常の白内障手術の費用は医療保険で給付されるため、患者さんは負担割合により自己負担額をお支払いいただきます。自費となる選定療養の費用は、ご希望の多焦点眼内レンズの費用およびそれに係る特殊な検査費用、そこから通常の保険診療で使用する単焦点レンズの費用を差し引いた金額となります。選択する多焦点眼内レンズにより費用は異なりますので、受診時にご相談ください。

4.当院で使用している多焦点眼内レンズ

5.手術合併症

<術中合併症>
手術に伴う危険性は、一般的な白内障手術と同じです。術中出血、チン氏小帯断裂(白内障を支持する組織が弱く、位置がすれたり眼内に落下する)、後嚢破損(白内障を被う膜が破れて白内障の欠片が落下したり、眼内の硝子体が出てきたりする)などが起こります。この際、多焦点眼内レンズは入れられなくなり、状況に応じて単焦点レンズを縫い付ける手術を行います。
この場合、通常の白内障手術に変更しますので保険診療による費用となります。多焦点眼内レンズの費用はお返しいたします。

<術後合併症>
術後も通常の白内障手術と同様に、細菌感染や一過性の眼圧上昇、水泡性角膜症(角膜が濁る)などが起こります。発症の割合は特に変わりません。その際は、視機能を保つために投薬や再手術の可能性もあります。
多焦点眼内レンズに特徴的な合併症としてはハローとグレアがあります。ハローは光がにじんで輪のようになる現象、グレアは光がまぶしく見える現象です。

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症状の出現には個人差がありますが、術後時間の経過とともに慣れてくるようです。

以上、多焦点眼内レンズについて説明しました。自由診療であり高額な負担がありますし、ご自身の目の状態によっては効果がなかったり、かえって単焦点眼内レンズと眼鏡の方がいいという場合もあります。まずは、眼科医と相談のうえ、しっかりと説明を受けることをお勧めします。